自然栽培は「無肥料」と言われることがあります。
しかし、正確には「無施肥」という考え方に近い栽培方法です。
野菜は肥料(栄養)なしでは育ちません。
植物は、窒素(N)・リン酸(P)・カリ(K)をはじめとする必須元素を吸収して生長します。
これらの栄養は、野菜が生きていくために欠かせません。
違いは、その栄養をどこから得るかです。
慣行栽培や有機栽培では、外から肥料を施し、野菜へ必要な栄養を補います。
一方、自然栽培や自然農では、落ち葉や雑草などの有機物を微生物が分解し、土の中でつくられた養分を野菜が利用します。つまり、「肥料を与えない」のではなく、「外から施肥せず、土がつくる肥料を利用する」という考え方です。
また、土づくりが十分でない畑では、最初から無施肥を目指すのではなく、有機物やたい肥を活用しながら土を育て、少しずつ自然の循環が働く環境へ近づけていくことも大切だと考えています。
では、なぜ現代の農業では、外から肥料を施す栽培が広く行われるようになったのでしょうか。
その背景を知るために、化学肥料や農薬が広がった歴史と、その後に生まれてきたさまざまな農法の流れを見てみましょう。
農薬と化学肥料が広がった背景
化学肥料を大量につくれる時代へ
20世紀初頭、空気中の約80%を占める窒素からアンモニアを工業的につくる技術が確立されました。
これによって、自然界の窒素循環だけに頼らず、作物に必要な窒素を肥料として大量に供給できるようになります。化学肥料は、農業の生産力を大きく高める技術の一つとなっていきました。
戦後の食料不足と食料増産
第二次世界大戦後の日本では、深刻な食料不足が大きな問題となりました。食料をできるだけ早く、安定して生産する必要があり、国を挙げて農地の整備、品種改良、肥料の増産、病害虫防除などが進められました。
その中で、化学肥料や農薬も重要な農業資材として広がっていきます。
GHQによる占領下という時代背景や海外からの技術・資材の影響もありましたが、それだけが理由ではないようです。
食料不足への対応、収量の安定、農作業の効率化、農業技術の発達、そしてその後の農村人口や社会構造の変化など、さまざまな要因が重なって現在につながる農業が形づくられていきました。
農業の近代化
高度経済高度経済成長とともに、農村から都市へ多くの人が移り、農業を取り巻く環境も大きく変化していきます。
化学肥料、農薬、農業機械、品種改良、農地や水利の整備などが組み合わさり、少ない労働力でも安定した生産を目指す農業が発達しました。農業生産の向上は、化学肥料や農薬だけではなく、こうした複数の技術や社会の変化が重なった結果です。
一方、社会全体では1955年の森永ひ素ミルク中毒事件、1956年に公式確認された水俣病など、化学物質による健康被害や環境汚染が明らかになっていきました。
農業でも、農薬の利用が広がる中で、残留性の高いDDTやBHCなどによる食品や環境への影響が問題となり、その後、使用禁止を含む規制が強化されていきました。
こうした出来事を通して、生産量や効率だけではなく、人の健康や環境への影響にも目が向けられるようになり、有機農業など、農薬や化学肥料への依存を減らそうとする動きも広がっていきます。
日本では、1971年に日本有機農業研究会が設立され、有機農業の運動が本格化していきました。2000年には有機JAS制度が始まり、2001年からは「有機」「オーガニック」などと表示して販売する農産物には、有機JAS認証が必要となりました。
農業は再び多様な方向へ
現在では、慣行栽培、有機栽培、自然農法、自然農、自然栽培、リジェネラティブ(大地再生)農業など、さまざまな考え方や栽培方法があります。
化学肥料や農薬は、食料不足や病害虫から作物を守り、安定して食料を生産するために大きな役割を果たしてきました。
一方で、使い方によっては環境への負荷が生じることも分かってきました。
大切なのは、どちらかを単純に「良い」「悪い」と決めることではなく、なぜその農業が生まれ、何を解決してきたのか、そしてどのような課題が見えてきたのかを知ることが大切だと思います。
農業は、時代や社会の変化とともにさまざまな形へと広がってきました。
次に、自然農法・自然農・自然栽培など、それぞれの農法や考え方の流れを見ていきます。
栽培方法の違い
野菜づくりにはさまざまな栽培方法があります。
それぞれ目的や考え方が異なり、優劣をつけるものではありません。
| 栽培方法 | 化学肥料 | 有機肥料 | 農薬 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 慣行栽培 | ○ | ○ | ○ | 安定した収穫と大量生産を重視 |
| 特別栽培 | △※1 | ○ | △※1 | 地域の慣行レベルと比べ、化学肥料と農薬の使用を一定以上減らして栽培する |
| 有機栽培 | ✕ | ○ | △※2 | 有機物を活用し、土づくりを重視 |
| 自然栽培 | ✕ | ✕ | ✕ | 土の力と自然の循環を活かす |
| 自然農 | ✕ | ✕ | ✕ | 自然の営みを尊重し、人の手を最小限にする |
※1 特別栽培農産物は、その地域の慣行レベルと比べて、節減対象農薬の使用回数を50%以下、化学肥料の窒素成分量を50%以下にして栽培された農産物です。
※2 有機栽培では化学的に合成された肥料や農薬の使用を避けることを基本としますが、有機JASで使用が認められた農薬などがあります。
自然農・自然栽培・新しい農業の考え方
「自然農」「自然農法」「自然栽培」は似た言葉ですが、それぞれ誕生した背景や考え方が少し異なります。
| 年代 | 提唱者・代表 | 呼称 | 考え方・特徴 |
|---|---|---|---|
| 1935年頃 | 岡田 茂吉 氏 | 自然農法 | 土が本来持つ力を重視し、化学肥料や農薬に頼らず、土を生かすことを基本とする自然農法を提唱。 |
| 1937年頃 | 福岡 正信 氏 | 自然農法(自然農) | 「耕さない・肥料を与えない・農薬を使わない・除草しない」を基本とし、人為をできるだけ減らす農法。代表作『自然農法 わら一本の革命』。 |
| 1970年頃 | 藤井 平司 氏 | 天然農法 | 有機物を外から投入することにも疑問を投げかけ、無投入の「天然農法」を提唱。農を栽培技術だけでなく、食・人・暮らしとのつながりから捉えた。 |
| 1978年頃 | 川口 由一 氏 | 自然農 | 福岡氏の思想を受け継ぎながら、耕さず、肥料・農薬を持ち込まず、草や虫を敵としないことを基本に、自然の営みに寄り添う農を実践。 |
| 1978年頃 | 木村 秋則 氏 | 自然栽培 | 肥料や農薬に頼らず、土の力を引き出して育てる栽培方法。必要に応じて耕起や草刈りなども行い、土づくりを重視する。 |
| 2000年代〜 | 岡本 よりたか 氏 | 自給農・無肥料栽培 | 無農薬・無肥料・無除草剤・自家採種を基本とした栽培を実践。地域資源や種をつなぎ、農と暮らしを一体として考える自給農へ展開。 |
| 2010年代〜 | 世界的な考え方 | リジェネラティブ(大地再生)農業 | 土壌を維持するだけでなく、土壌の健全性、生態系、生物多様性などを再生・回復していく農業の考え方。被覆、輪作、多様化、不耕起・省耕起など、地域に応じた方法を組み合わせる。 |
※年代は、著書の出版年ではなく、その考え方や栽培の実践・提唱を始めた時期を目安にしています。
※現在では区別しやすくするため、福岡正信氏は「自然農」、岡田茂吉氏は「自然農法」と呼ばれることが一般的ですが、福岡氏自身は著書の中で「自然農法」という表現も使用しています。
その他の栽培方法
この表で紹介したもの以外にも、協生農法、菌ちゃん農法、炭素循環農法、ガッテン農法、道法スタイル(垂直仕立て)など、さまざまな考え方や栽培手法があります。どの農法が正しく、どれが間違っているというものではありません。
大切なのは、農法や栽培方法の名前にこだわることではなく、その背景にある考え方を理解し、自分の畑や環境に合わせて活かすことです。その中で、自分らしい野菜づくりや自然との向き合い方を見つけていきましょう。
ポイントは、
畑を見る。
土を見る。
野菜を見る。
微生物を育てる。
土(微生物・根)が肥料をつくる。
野菜が育つ。」
という自然の循環を理解し、その土地に合った環境を育てることが大切です。


